「情熱的で、おもしろい取り組みをしている若手エンジニアがいる」
社内でそんな噂を耳にし、私たちはA.U.さんのもとを訪ねました。彼は、大学院で医療画像解析を専攻し、現在は国からの補助金を活用した医療画像AIプロジェクトを担当しています。
また、世界中のデータサイエンティストやエンジニアが腕を競う「Kaggle(カグル)」で研鑽を重ねる熱心なKaggler(カグラー)でもあります。世界各国の参加者が集うこのプラットフォームで、継続的にコンペティションへ挑戦し、着実に順位を上げてきました。
しかし、本人はどこまでも謙虚で、「自分なんて、周りに比べたらまだまだです」と照れくさそうに笑います。
医療のバックボーンを持つ彼が、なぜ医療機関ではなく、ソフトウェア会社であるセックを選んだのか。そして、社内外の「仲間」との出会いを経て、どのように成長してきたのか。彼が歩んできた挑戦の軌跡と、その成長を支えた仲間や環境について、じっくりと話を聞きました。
A.U. 開発本部第一開発ユニット プロジェクトリーダ
高校生の頃に東日本大震災が起き、福島の原発事故が重なったことで、日常的に「放射線」という言葉を耳にするようになりました。その時に、「放射線から人々をどう防護すべきなのか」、「放射線物理学とはどういう学問なのか」という部分に強い関心を持ったことが、最初のきっかけです。
また、私自身が幼少期に比較的大きな手術を経験したこともあり、医療に対して「いつか何かの形で恩返しがしたい、力になりたい」という想いをずっと抱いていました。
画像解析を行う研究室に所属し、前立腺のMRI画像から「病変が良性か悪性か」を判定する診断支援AIの開発に取り組んでいました。前立腺の病変は良性か悪性かによって、その後の経過観察や治療方針が大きく変わるため、画像から高い精度で見極めることが重要になります。この時に画像解析やAIの面白さに魅了され、自分で勉強してAI関連の資格を取得したりしていました。
おっしゃる通り、私が在籍していた大学の同級生は、ほとんどが病院の診療放射線技師になります。ただ、自分でAIの研究を進めていくうちに、ある気づきがありました。診療放射線技師として病院で働く場合、目の前の患者さんを「1対1」で支えることができます。しかし、自分が直接アプローチできる範囲は、その病院に足を運んでくれる患者さんに限定されます。一方で、優れたIT技術やAIシステムをこの世に送り出すことができれば、地域や国境を越えて、何万人、何十万人という、より多くの人々を「1対多」で手助けできるかもしれない。そう考えるようになったんです。
その上でセックを選んだのは、まず「単にAI技術を活用するだけでなく、実用に耐えうる堅牢なソフトウェアを体系的に作れるエンジニアになりたい」と思ったからです。セックには社会を支えるさまざまなソフトウェアを構築してきた実績があり、ここでならエンジニアとしての強固な土台が作れると感じました。
もう一つの理由は、未経験者に対する研修制度が充実していることです。完全に医療系の環境に身を置いていたため、周りにエンジニアの知り合いが一人もいませんでした。だからこそ、「ゼロからエンジニアのイロハを徹底的に教えてくれる会社」という視点で就職活動をしていた私にとって、セックの手厚い研修制度は本当に大きな安心材料でした。
最初は官公庁向けのプロジェクトに配属され、システムのテストなどを担当しました。システム開発の各工程や仕様への理解を深める、非常に良い経験でした。
それと並行して、自分がAIに取り組みたいと思っていることや、大学院で研究していたことを社内で発信していたところ、当時の上司の方々が声をかけてくださり、ほどなくしてAIに近い別の案件に携わる機会をいただきました。若手の声をしっかりと聞き、挑戦の機会を与えてくれる環境は本当にありがたかったですね。
また、会社の業務とは別に、大学院生の頃から現在に至るまで、個人でずっと続けている趣味があります。それが「Kaggle(カグル)」をはじめとするAIコンペティションへの挑戦です。
一番は、自分の好きな分野で「純粋に競争を楽しめること」です。
AIコンペは通常3ヶ月ほどの期間で開催されるのですが、その間、世界中の参加者が提出した予測モデルのスコアがリアルタイムに順位表に反映されます。自分が工夫してスコアを上げると、順位もすぐに変化する。それがとてもおもしろいんです。
学生時代は、テストや部活動など競争する機会が多くありますが、社会人になると、良くも悪くも他人と直接スコアを競い合う機会は減りますよね。自分の大好きな技術で、世界を相手に実力を試せる。このワクワク感が、仕事帰りの夜や休日にPCに向かい続ける最大の原動力になっています。
また、これまでは基本的に「1人」でコンペに参加していました。チームを組むのも楽しいと思いますが、1人でどこまで勝てるか挑戦することで、「今の自分の実力」を純粋に確かめたかったんです。ストイックに見えるかもしれませんが、知的好奇心を満たす、最高に楽しいゲームに取り組んでいる感覚ですね(笑)。
実は、最初は表立ってアピールしていたわけではないんです。2、3年前に、社内の勉強会「水曜ナイト」で活動を発表したり、新入社員の研修トレーナーから「ちょっと新人にAIの話をしてくれない?」と頼まれてお話ししたりするうちに、徐々に社内で知られるようになっていきました。
大きなきっかけになったのは、ある学会が主催する国内コンペで優秀な成績を収めた時のことです。「今度、学会で発表することになったのですが、セックの名前をスライドに出してもいいですか?」と上長に相談したんです。そうしたら、上司や周囲の方が「そんな取り組みをしていたんだ」「せっかくだから会社のニュースとしても発信しよう」と、前向きに後押ししてくれました。
本当にうれしかったです。セックは、歴史のある真面目な会社というイメージがあるかもしれませんが、社員の自発的な挑戦や社外での活動を、「いいね、もっとやろう」と応援し、評価してくれる温かさがあります。
おかげさまで、上位入賞者として日本再生医療学会総会の大きなステージに立たせていただき、多くの医療従事者の方々の前で、自分が取り組んだアプローチについて発表するという、貴重な経験を積むことができました。
実はこのコンテストは、私にとって初めて2人のチームで挑んだものでした。これが、自分の中で大きな転機になりました。
チームを組んだのは、社外のコミュニティ「関東Kaggler会」の勉強会で出会った同世代の方で、私より高いランクである「Kaggle Master」を持つエンジニアでした。偶然、同じコンペに参加していたこともあり、「一緒に組んでみませんか?」と声をかけ、2人でチャレンジすることになったんです。彼の取り組み方を間近で見たことで、自分の開発スタイルが1段階も2段階もアップデートされました。
彼は、AIの予測精度を高めるために、Claude Codeを活用して500回以上もの実験を重ねていました。しかも、実験の実行だけでなく、実験ごとのパラメータや評価スコアの記録、結果の整理まで、Claude Codeに一貫して任せていたんです。
さらに工夫されていたのが、実験結果を単に記録するのではなく、Claude Code自身が過去の実験履歴を参照できるようにしていた点です。これにより、AIが「何を試し、何がうまくいき、何がうまくいかなかったのか」という実験の文脈を把握したうえで、次の実験を検討できるようになっていました。
その上で、「次の一手をどうすべきか」とAIに相談しながら、仮説の検討から実験、結果の整理、次の改善へと次々に進めていく。
この試行錯誤のスピード感に衝撃を受けました。
まさにその通りです。これまでは「実装が大変そうだから、この実験は後回しにしよう」と、実装にかかる時間や手間を考えて妥協していた部分がありました。しかし、そうした作業の一部をAIに委ねることで、自分は「データの癖」を見つめ、仮説を立て、方向性を修正することに、より多くの時間を使えるようになりました。
この取り組み方を取り入れた結果、第7回全国医療AIコンテストで優勝できただけでなく、その直後に1人で参加した別のプラットフォームのコンペでも、1位を獲得することができました。1人で取り組み続けていた時には見えなかった景色が、信頼できる仲間から学び、自分の殻を破ったことで、一気に広がったと感じています。
私自身、AIツールを使うようになって、以前ほど「実装すること」そのものでは差がつきにくくなってきていると感じています。だからこそ、これからのエンジニアにとって大切になるのが、「仮説を立てる力」と「データを見る力」だと思います。どれだけ優れたAIであっても、最初に「このデータには、こういう偏りがあるのではないか」「過去のあの事例で使われていた手法を応用できるのではないか」と仮説を立て、問いを投げかけるのは人間の仕事です。
天才的なひらめきが必要なわけではなく、私自身は「先人たちの知恵を泥臭く学び、蓄積すること」だと思っています。
Kaggleでは、過去に優秀な成績を収めた人たちが、自分たちの解法、いわゆる「ソリューション」を、ブログやフォーラムなどを通じて詳しく公開してくれています。私はこれを毎回、それこそ浴びるように読んでいます。「こういうパターンの時には、こういう観点からデータを切り取るのか」という事例を、頭の中に大量にストックしておくんです。
地道にこのインプットを繰り返してきたからこそ、新しいタスクに直面した際にも、「あの時の観点を今回のデータに適用してみたらどうだろう」と、仮説をスピーディーに導き出せるようになりました。エンジニアがやるべきなのは、AIに丸投げすることではありません。自分の目で生のデータを見つめ、試行錯誤しながら仮説を組み立てること。それこそが、これからの時代にエンジニアが磨いていくべき力なのだと考えています。
現在は、医療画像分野のベンチャー企業とセックが共同で、国からの補助金を活用しながら進めている「医療画像診断支援AI」の研究開発プロジェクトをメインで担当しています。
約2年前、セックにこの仕事の打診が来た際、医療とAIの両方のバックグラウンドを持つ私が適任だと、上司が強く推してアサインしてくれたんです。
医療用の診断支援AIでは、病変の「見逃し(見落とし)」をできる限り防ぐことが非常に重要です。誤検知だけでなく、病変を見落としてしまうことも、患者さんの診断や治療に影響を及ぼす可能性があるからです。求められる安全性や信頼性を実現するため、日々、Kaggleで培った知見も活かしながら、モデルの改良を重ねています。

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短期的には、Kaggleでのグローバルランクをもっと引き上げ、いつかはKaggleランキングで世界のトップ10に入りたいという目標があります。
そして長期的には、自分の原点である医療のバックボーンを活かし、「医療現場の最前線で本当に機能する、医師や患者さんのためのAIシステム」を作ることです。現在は画像診断が中心ですが、今後は、検査が終わった段階で画像とさまざまなデータを統合し、AIが診断レポートの原案を作成するシステムや、診察中の医師と患者さんの会話を音声認識し、電子カルテへの記録を支援するシステムなど、医療現場を支えるAIシステムを作りたいと考えています。
そのための勉強も兼ねて、Kaggleで「鳥の鳴き声という音声データから種類を予測する」コンペにも参加しています。音声データを画像として表現して処理する手法も使われるため、画像認識で培った知識を活かせる部分があります。また、ノイズの多い環境で、限られた正解データから対象の特徴を捉えるための知見は、将来的に、症例データの少ない医療分野にも活かせるのではないかと考えています。日々の趣味として取り組んでいる学びが、将来、誰かの役に立つ技術につながるかもしれない。そう考えると、楽しくて仕方ありません。
入社前に思い描いていた、「1対多」で、テクノロジーの力を用いて世界中の医療従事者と患者さんを支えること。この目標に向かって、信頼できる上司や仲間に囲まれたこの環境で、これからも一歩一歩、実直に歩みを進めていきたいです。
技術に対してどこまでも真摯で、努力を惜しまず、それでいて「周囲の仲間や上司のおかげです」と感謝を忘れないA.U.さん。
彼の言葉からは、ただ技術を追い求めるだけでなく、「その先にいる誰かの役に立ちたい」という、医療を志した頃から変わらない想いが伝わってきました。
また今回のインタビューでは、一人ひとりの挑戦を受け止め、成長を後押しするセックの文化も垣間見ることができました。個人の学びや挑戦が仕事につながり、仲間との出会いを通じてさらに成長していく。A.U.さんの歩みは、そうした環境の中で形づくられてきたものなのだと感じます。
医療×AIという領域で、人々の暮らしや医療現場に貢献したい。そのまっすぐな想いが、これからどのような形で実を結んでいくのか。A.U.さんの今後の挑戦に期待が高まります。
(取材・文/セック・広報担当)

















