はじめに

リアルタイム技術を核に、宇宙、防衛、社会インフラなど、日本の「ミッションクリティカル」な領域を支えるセック。その中でも、宇宙機搭載ソフトウェアの開発は、当社の技術力を象徴する分野のひとつです。しかし、その成果の裏には、エンジニアたちの地道な試行錯誤と、未知の課題に挑む物語がありました。
2024年、日本中から注目を集めたJAXAの月面着陸ミッション。その一翼を担った変形型月面ロボット「SORA-Q」のソフトウェア開発は、セックの技術力を結集したプロジェクトになりました。しかし驚くべきことに、この挑戦を担ったのは、宇宙機の開発経験がほとんどなかったエンジニアたちでした。
異なる分野での開発経験を持つエンジニアたちが、どのようにして難題を乗り越えたのか。セック独自の開発文化と、その成功の軌跡、そして未来への展望に迫ります。

INTERVIEW

J.T.  開発本部第四開発ユニット プロジェクトリーダ
H.H.  開発本部第四開発ユニット プロジェクトマネジャー

「地上の常識は通用しない」 ― 未知の課題を乗り越えたセック流問題解決力

挑戦の始まり ― 「畑違いの我々がなぜ?」という戸惑いから

SORA-Qの開発プロジェクトは、どのような経緯で始まったのでしょうか?

J.T.さん
SORA-Qの開発はJAXA、タカラトミー、ソニー、同志社大学による共同研究としてスタートしたものです。その中で、複雑なロボットに「命」を吹き込むソフトウェア開発のパートナーとして、当社に声がかかったのが最初のきっかけです。その後の本開発は、正式な入札を経て当社が採択されました。

お二人とも、宇宙機向けソフトウェア開発は未経験だったと伺いました

J.T.さん
はい。私はそれまでスマートフォンなど全く異なる分野に携わっていたので、最初は戸惑いが大きかったです。社内には宇宙機の分野で経験豊富なメンバーもいる中で、「なぜ自分なんだろう」と。しかしセックには、そうした経験者のマネジメントの元で、あえて未経験者に大きな挑戦を任せて育てるという文化があります。この抜擢も、その思想の表れだと感じています。

H.H.さん
私も主体的に宇宙機開発に関わるのは初めてのことでした。それでも最後までお客様からの信頼を得て開発を進めることができたのは、過去のプロジェクトでお客様の「期待を超える成果」を積み重ねてきたからなんだと思います。そのバトンを受け継ぐ重圧を感じながらのスタートでしたね。

「地上の常識」との闘い ― 止まることが許されないシステムへの挑戦

開発で最も困難だったのは、どのような点でしたか?

J.T.さん
「何があっても止まってはいけない」という、宇宙機ならではの制約です。地上のシステムであれば、異常があれば停止して不具合を確認することができます。しかし、月面で止まればミッションは即失敗です。そこで、考え得る故障を事前に洗い出し、万が一不具合が発生しても自律的に回復するためのシナリオを用意して、それを一つひとつプログラムに組み込んでいきました。例えば、モーターに想定外の負荷がかかったら、一度停止して逆回転させ、原因を取り除いてから再度動かす、といった具合です。この地道な作業が、SORA-Qの信頼性の根幹を成しています。

月面という特殊な環境を想定した検証も大変だったのでは?

H.H.さん
はい。JAXAの施設の、月の砂「レゴリス」を模した砂場で動作検証を繰り返しました。そこで頻発したのが、車輪の軸に砂が噛んで動かなくなるトラブルです。地上なら手で払えば済みますが、月面ではそうはいきません。モーター内のセンサーの電流値のわずかな変化から「砂が噛んだ」とソフトウェアが自己診断し、自動で逆回転して砂を振り落とす機能を実装しました。何秒、どれくらいの力で回せばうまくいくのか。答えのない問いに試行錯誤を重ねる日々でしたね。

成功の鍵 ― 宇宙に「スマホの手法」を持ち込む逆転の発想

前例のない課題を、どのようにして乗り越えていったのでしょう?

J.T.さん
我々が持ち込んだ、ある意味「型破り」な開発手法によるところが大きかったと思います。その一つが、スマートフォンアプリ開発の試験手法を取り入れた「連続稼働試験」です。完成したソフトウェアを実機に搭載し、昼夜を問わず動かし続けました。宇宙機開発という一見華やかなプロジェクトの裏側で、非常に地道な試験を繰り返していたわけです。この泥臭いやり方が、ごく稀にしか起きない潜在的なバグを発見し、品質を極限まで高めることにつながりました。

H.H.さん
もう一つは、セックの文化として根付いている「集合知の活用」です。セックには、役職や部署に関係なく、誰にでも気軽に相談できるフラットな環境があります。困った時に一人で抱え込まず、チームの垣根を超えて知恵を集めることで、最短で答えにたどり着く。この柔軟な問題解決のスタイルも、今回の成功を支えた大きな要因だったと感じています。

セックの強み ―「チャレンジする文化」と多様な人材

SORA-Q開発の成功を支えた、セックの根本的な強みとは何だと思いますか?

J.T.さん
間違いなく「人」と「文化」です。セックは景気や採用環境の良し悪しに関わらず、質重視の採用を貫いてきました。多様なバックグラウンドを持つ人材を、エンジニアとしてのポテンシャルを重視して採用しています。だからこそ、私のようなモバイル分野での開発経験者も、H.H.さんのようなXRが得意なエンジニアも、宇宙という異なる分野で力を発揮できるし、物理学や数学といった情報工学ではない学問を学んできた社員であっても、質の高いシステムを作り上げることができるんです。

H.H.さん
そして、その多様な人材に「挑戦させる文化」があります。やったことがないからやらせない、ではなく、やったことがないからこそ、挑戦させる。もちろん、それは無謀な挑戦ではなく、経験豊富なマネージャーのサポートや相談できる組織文化というセーフティネットの上で成り立っています。この文化が、エンジニアを成長させ、会社全体の技術力を底上げしているのだと思います。

今後の展望 ― SORA-Qの知見を、新たな社会価値へ

このプロジェクトで得られた経験は、今後どのように活きていくのでしょうか?

H.H.さん
SORA-Qの開発で得られた「自律性」の技術は、ロボットだけでなく、あらゆるシステムに応用できます。例えば、私が専門とするXR技術と組み合わせ、遠隔地のロボットを直感的に操作したり、取得したデータを仮想空間で再現したりと、新しい価値創造の可能性は広がっています。宇宙と地上、双方の知見を融合させた新しい挑戦をしていきたいですね。

J.T.さん
今回の成功は、あくまで通過点です。我々が証明したのは、未知の課題に対してチームで立ち向かい、解決できる「組織力」です。この経験を糧に、より社会にインパクトを与えるプロジェクトにも挑戦していきたいと考えています。

おわりに

SORA-Qの開発は、戸惑いから始まりましたが、エンジニアの情熱とセックの文化がその成功を支えました。役職や経験に関係なく知恵を出し合い、困難を乗り越える。その背景には異なる分野から生み出される柔軟なアイデアと、惜しみなく仲間を助ける強いチームワークがあります。今回のプロジェクトで得た大きな自信と経験を未来へのバトンとして、セックはこれからも新しい挑戦を続けていきます。

(取材・文/セック・広報担当)

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