背景と目的

近年の建築技術の向上により、複雑で多様な形状をもつ建築物が増えてきています。デジタル技術の活用は、そのような複雑な建築物の設計にも生かされており、建築スケール・都市スケールの双方で、コンピュータを活用した空間設計が一般的になりつつあります。
一方で、設計された空間を人々はどのように感じるのか、その空間の認知に主眼を置いた分析は、様々な数理手法が提案されつつも難しいテーマであり、定量的な評価に課題が残っています。結果として、特に空間設計の大まかな方針を決めるような初期フェーズでは、空間デザイナーの感性や経験則に頼らざるを得ないシーンも多々ありました。その最たる例が、人々の活発な交流が期待できる公共的な空間(パブリック空間)と、それぞれの人が静かに集中できる個室的な空間(プライベート空間)の理解です。
本研究では、建築空間の解析を通じて、建物や都市の空間レイアウトを評価し、それが人間の動きや交流のパターンにどのような影響を及ぼすのかを予測するシステムを構築します。

研究開発内容

当社は東京大学生産技術研究所本間裕大准教授と数理最適化手法を用いて人々の動きや交流のパターンが及ぼす影響を評価・予測し、建築・都市空間の設計を支援するシステムの開発を共同で行っています。その成果の一つとして、建築空間や都市空間において、「人々の交流が生まれやすいホットスポット」の場所を、色の濃淡としてリアルタイムに可視化するソフトウェア「Convex Space Visualizer」を、2022年 9 月 14 日より GitHub にて無償公開しました(※1)。空間の形を自由に入力し、あるいは変化させながら、考え得る数万から数十万もの凸空間を網羅的に列挙し、その分析結果をリアルタイムに得ることができるため、住宅のフロアレイアウトやインテリアデザイン、あるいは駅前空間や公園空間の活用など、ユーザーとデザイナーが対話しながら、協働で理想の空間を設計していくようなシーンでの活用が期待できます。OR学会等での発信を契機に市場のニーズを捉え、更なる機能試作を行うとともに、ユーザーフレンドリーなシステム実現に向けた数理最適化処理の高速化に挑んでいきます。

※1GitHub sec-archispace/ConvexSpaceVisualizer 
https://github.com/sec-archispace/ConvexSpaceVisualizer